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  • Richard Scheno

アメリカと日本の間で:ボディ・ニュートラリティに至るまでの3ヶ月

内容注意:摂食障害について書かれています。


アメリカと日本の正反対な文化に縛られた自分の体を取り戻すべく奮闘した後、日本の支部長から受けたセールスに関するレクチャーをきっかけに、私はボディ・ニュートラリティの道を歩み始めた。変わらない遺伝形質と絶え間なく変化する政治思想の間で、自分の体に対して主体性を持とうとするのは容易いことではない。これらの思想は地理的に分断、そして維持され、それぞれの文化圏内に住む人々の精神的分離を引き起こし、より流動的で多様になった人口に大きな影響をもたらしている。私の支部長が言った「新しい習慣を身につけるには3ヶ月かかる」という言葉は、どこの文化基準にも左右されない、新たな心身相関を生み出した。


私は167cm、約55kgのシスジェンダー*の白人男性である。いたって平凡な数値であるにも関わらず、私の体はアメリカと日本の両国で常にいじめと愚弄の的となった。8歳の時にニューヨーク州からメイン州に引っ越した際、引っ越し先が小児肥満が蔓延していたエリアだったため、たちまち目立ってしまった。その地域だけでなく、全国的にも体が小さくあまりスペースを取らない者は、男らしさに欠けているという考えだった。子供の頃は「もやし」「棒切れ」「チビ」などと、同級生大人共に見た目のことを非難された。後に栄養失調や摂食障害、暴力の被害者なのではないか、と主張する者や性自認を確と疑う者まで現れた。地元の服屋の品揃えは、多数派のニーズに応じたものであったため、サイズの合う服を見つけるのには苦労した。青年期に感じた孤立感は自分の体のせいに違いない、とよく自分を責めたものである。


大学では東アジア文化を専攻した。日本に旅行、留学、そして引っ越すという体験を機に、私の伝統的な「男らしさ」の概念は大きく覆り、拍車がかかった。日本では服探しに困らなくなり、サイズもアメリカのXSから日本のMサイズに変わった。おかげで着る服には悩まなくなったが、それだけでは深く染み付いた自分の体を憂鬱に思う気持ちは消えることはなかった。


日本では新たな礼儀作法と男らしさの理想を強いられることとなった。私はもう、細いとも未成年と見なされることもなくなった。では、私は一体何なのか?ほんの少し前まで細いとされていた私の体も、多くのすらっとした、身軽そうな日本人男性と比べると、ずんぐりむっくりして見えた。これ以上太ってはいけない気がした私は、服に付いているMサイズのタグを見る度にいささか不安になった。制汗剤や髭、鼻の曲線などについて質問攻めにあい、心と体に新たな亀裂が生じた。


仕事先である関西の英会話学校で、幾度か生徒への補足資料の売り込み方法についてのワークショップが開かれた。当時まだ新米講師であった私は、支部長の熱意に感銘を受けた。それできっと、彼女の「新しい習慣の形成には3ヶ月かかる」という言葉が印象的だったのだろう。この時はまだ定期的にランニングをする習慣はなかったが、「3ヶ月頑張ればいい」という提案は、私のやる気に火を点けた。


私は仕事の後に走るようになった。ランニングには様々な利点がある。心臓や血管を健康的に保つ効果や、スタミナの向上が始めた動機だった。しかし、西洋の男性の多くが運動によって得たいと望むような外見的な変化、つまり筋肉の増強はあまり期待できない。私はどの国の男らしさの理想も追求せず、ただ走った。より長く、より速く走るために努力し、次第に日中の体力が向上し、寝つきも良くなった。3ヶ月目を迎える頃には、仕事後のランニングは揺るがない習慣となっていた。


ランニングの進歩に満足感を覚え始め、体に対するコメントや批評をあまり気にしなくなった。目標を見つけた私は、アメリカや日本の男らしさの理想に縛られなくなっていった。この時はまだ「ボディ・ニュートラリティ」を追求することもなく、また、そのような言葉が存在することも知らなかった。ランニングの改善に集中することで、自然とその概念への移行を始めたのである。


外見にも変化が起きた。見た目を変えてもいいのではと思うようになり、髭を伸ばしたり、周囲の反応を気にせず好きな服を買ったり、アクセサリーを身に着けるようになった。特定の文化の基準に合わせないことで、私はアメリカ人の自分を無理に太らせる必要も、周囲の日本人男性に改めて自分の体を認めてもらう必要もなくなった。


文化によって定められた理想体型は常に変化し、人々の感性は伝統と流行に左右される。自分自身と新たな内面にフォーカスした関係を築いた私は、文化的圧力に押し潰されることなく、自身の体とボディイメージに対し主体性を持つ事に成功した。まだ完全にありのままの自分を受け入れたわけではないが、食事制限や習慣を変える時は主に見た目ではなく、健康が理由だ。何か新しいことを始める際に躓くことがあっても、3ヶ月間の継続的な努力によって人生は変えられるのだと思い出し、再び精進するのである。



*シスジェンダー:性自認と生まれた時に割り当てられた性別が一致している人



翻訳 Yuko C. Shimomoto

編集 Emiru Okada

グラフィック Maya Kubota

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