ブレーキを 踏んでようやく 取り戻す
大切な プシケのかけら
「プシケ」または「プシュケー(psyche)」とは、古代ギリシャ語で心や魂のことを指します。
「メンタル」「精神」「心」
私たちがこうした話題について、分かりにくい、触れにくいと思うのは、それらが何なのかはっきりしていないからなのではないでしょうか?
果たしてあなたは、本当に心は存在すると思いますか?
私は答えを出すことはできませんが、こう考えてみたら、心がどのようなものか少しその存在を理解できるのかもしれません。心は私たちの基盤である脳と、体の外で起こる体験を繋げてくれる、「かけ橋」のようなものであると考えると分かりやすいと思います。
もちろん私たちの身体機能や認知機能は、脳という臓器が主に調整しています。
しかし、同時に外部での経験が、身体や認知機能の働き方に影響を与えます。そのため、脳と外部を繋げるのが心だと見ることができます。心が内部にある脳と外部の環境との関係性を築くのです。
もっと分かりやすくするために、脳を「車」に、心を運転席の「ドライバー」に例えてみましょう。心が安らかであれば、安全に車を運転できます。ただ、そこに横から強い風が吹いてきたら、ドライバーは走りにくさを感じ、車が揺れることもあります。風(外部の環境)が、ドライバー(心)に影響を与え、車(脳)の動きが乱れるのです。また、荒っぽい運転をするドライバーが事故を起こしたら、他の車のドライバーに影響を及ぼします。一人の心の動きが、事故という外部環境の変化を通して、他の人の心や脳にも影響を与えます。
私たちはいつも、車が前に進んでくれることを期待します。困難に直面した時も、前進しなければならないと思っています。生きるためには苦しくても、前に進まないといけないと多くの人は思うでしょうから。
心の病気は、無理に進もうとしたが故にできたものと言っても良いかもしれません。
進もうと頑張っているのに、正常に運転できていない状態です。心はその異常やエラーを察知して、体の内部の働きをコントロールする脳にも、他の人々といった外部の環境にも訴えかけているのです。
精神と身体は、繋がっているとよく聞きますよね。
例えば、仕事や学校でストレスを強く感じ、身体に蕁麻疹が出たとします。これは心が出しているサインです。いったん休憩して、うまく今の状況や環境と適応できる方法を探してくれ、と訴えているのです。
不安定な心のままで脳という車を運転したら、心は外部との接点を上手く見つけられず、混乱して様々な面で影響が出てきます。
そうなる前に、一度ストップすることがとても大切なのです。心の土台をしっかり築いてから再出発したら、自分の内と外を繋げて運転しやすくなります。どんな環境でも運転できるスキルを身につけたら、目的地へと到達することが容易になります。
環境を無視しながら突き進むことは不可能です。台風の中、危険を知りながら外へ出ることはないでしょう。同じように、心が機能していないことを把握しつつ走り続けることも危険です。
必要があれば止まり、何が起こっているのか心が自ら把握する必要があります。
しっかりと前へ進むために、私たちはプシケ(心)を身体と同じくらい大切にして生きなければなりません。たとえ見えにくいものであるとしても、とても重要な役割を担っているからです。
目的地を目指して前に進もうと思うなら、時にはブレーキを踏んで心を休める。そうしてこそ、傷つきそうになった心のかけらを元に戻すことができるのではないでしょうか。
編集 Emiru Okada
グラフィック Ren Ono