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  • Kiana

清潔感とボディ・ポジティビティの狭間で


脱毛など、高額な美容医療が日本で流行している。

婚活サービスと脱毛の広告のない電車を、都心で見ないのは不可能なくらいに。


一方で、欧米諸国を中心にボディ・ポジティビティの動きも加速している。

なんだか日本と諸外国で互いに少し逆行しているような、この流れはなんだろうと最近疑問に思う。


脱毛と結婚はなぜかセットに見えるくらい、社会から強要されているように、私は感じる。

脱毛は清潔感と美しさの名の下に広報されているわけだが、同じ二つの大義名分の中でもう一つ、私が個人的に最近大きな流れを感じているものが、ホワイトニングと歯列矯正だ。


高校生の頃に初めて渡米した時、アメリカ人は結構な割合でみんな歯の着色汚れを気にしていると気づいた。アメリカ人のパートナーに聞いてみたら、色だけではなくて歯並びも重要だから、多くの人が幼い頃から歯列矯正をするそうだ。小学生のうちに始めて、遅くとも社会人になるまでには終える。


歯が黄色く着色するのは、主にコーヒーやお茶などの飲料、カレーなどの色の濃い食べ物を多く摂取した場合。


それって食文化が大きく関係するのではないか?

日本人はあまり歯の着色汚れや歯列を気にしないように映るらしいが、日本ではそもそもお茶をたくさん飲むし、色の濃い味噌を毎日、多ければ毎食、味噌汁として摂取する。着色汚れは結構不可避な気がする。


生まれつき肌の黄疸が強くて、眼球や歯が黄色く濁りやすい体質の人もいる。

私のように、遺伝的に歯の本数が生まれつき通常よりも少なかったり、顎のサイズが上下で差があって、いわゆる模範的な美しい歯を手に入れることが不可能な人もいる。


こういうことを考えると、歯の見た目は個性として認められるべきなのではないか?


歯が白すぎるとインプラントした人工の歯のように感じるし、ホワイトニングしすぎると自然な色に見えない。そういう意見もある。白人だったら、白い歯でも目立ちすぎないかもしれないけど、黄色人種の私には、白すぎる歯は不自然だろうか?八重歯は可愛いとも、チャームポイントとも言われるけど、気にして抜歯する人もいる。


もう歯のメンテナンスだって、脱毛の自由や結婚願望と同じで、個性でいいんじゃないか?

個人的には、ボディ・ポジティビティに含まれる条件を十分満たしているんじゃないかと思う。


試しに数人のアメリカ人の友人に、なぜホワイトニングをするのか、違和感や疑問を抱いたことはないのか聞いてみた。全員の答えは同じで、歯は白い方が美しいし、清潔だから。ホワイトニングや矯正をすることに、疑問や違和感を抱いたことはないという。


そもそも、顔のパーツの中で欧米人は口元を気にして、日本人は目元を気にすると言われている。コロナ禍で特にマスク着用規制に関して大きく対応が異なり、この口か目かという話が関わってきた。


一般的に、英語をはじめ欧米の言語を使う際に、人は相手の口元に注目して話を聞くと言われている。だから欧米での絵文字の使い方も日本人とは少し異なって、口での表現がより豊かな使い方になるらしい。それゆえ、欧米圏の人々にとって、口元が遮られるマスク生活は不快なようだ。


一方、日本語を話す際は、人は会話の際に相手の目元に注目する。「目が笑っている」「目が死んでいる」などの表現があるが、言われてみれば私も目の表現が豊かな絵文字を使うような気がする。日本人は三年以上に及ぶコロナ禍において、ニュースになるほどマスク生活に関する不満が募ることはなかった。


それくらい、日本人には口が隠れることはなんでもないようだ。

高校生や若者の中には、「いつかコロナ禍が終わってもマスク生活を自ら続けたい」「口元を今更になって人に晒すのが恥ずかしい」という意見も多いようだ。


そんな三年間のマスク生活の中で、徐々に日本でも口臭ケアやホワイトニングなど、歯に関連するケアに注目が集まってきた。この三年間の間に、歯列矯正をした友人を何人も見てきた。もちろん、このタイミングで私の世代は、就職してお金を稼げるようになったことも影響しているかもしれないが。


最近、YouTubeなどのSNSでアメリカ製のホワイトニングシートがPRされている。ホワイトニング歯磨き粉なども積極的に販促され、種類も増えてきた。


でも私はちょっとした危機感を覚えている。


脱毛と同じで、ホワイトニングや歯列矯正も高額だ。

ホワイトニングは、歯磨き粉やシートならせいぜい数千円でできるのでまだかわいいもの。歯科医院でのホワイトニングは保険適用外で高額だから、できる人は一気に限られる。

歯列矯正となったら数十万円かかる。歯の状態によっては抜歯や差し歯が必要となり、百万円近くなるケースもある。


全員が望んだら施術できる金額ではない。


SNSで、見えなかったはずの世界が見えるようになって、直接の知り合いではない人の世界線まで見えるようになった。「親ガチャ」などの言葉が生まれたように、人々が互いの境遇や経済格差を自覚してしまうようになった。見えなかったら望まなかったかもしれないものを、望むようになった。


脱毛や歯列矯正、ホワイトニングは、なくても困らないもの。

でも、SNSでみんながやっているのを見たら、芸能人だけでなくもう少し身近な憧れの人がやっているのを見たら、手が届く気がして、少し手を伸ばして手に入れたくなるかもしれない。


私はこの三つ、全てやった。

脱毛は、中学生の時に毛深くて男子にいじられて辛かったから。

歯列矯正は、顎が痛くなるほど噛み合わせが深くなってしまって、受験の邪魔になったから。

ホワイトニングは、アメリカ人の彼と並んで写真を撮って、自分の歯だけが黄色いのが嫌だと思ったから。


三分の二は他人軸。

脱毛と歯列矯正は、たまたま家族がお金を出してくれて望んだものが手に入ったけれど、

全員ができるわけではないこともきちんと教えてくれた家族に感謝している。


欲しいと望む理由は自由だけれど、他の人に「やったほうがいいよ」と言う権利は誰にもないはず。だから、私は脱毛のペア割にちょっと違和感を感じるし、歯列矯正のことを聞かれるまではあまり詳細を話したくない。自分で自分なりの理由が分かっていれば、たとえ流行しているものでも、支払う余裕があるならそれでいいと思う。


経済格差が、美容格差にならないように。

もっと言うと、美しさの基準が経済格差によって画一化されませんように。


三つともやってみて、歯列矯正をやっても模範的な美しい歯にはならなかったけど、自分の歯と笑顔をやっと大好きになれた私より。




編集 Emiru Okada

グラフィック Satomi Shikano


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