私たちが暮らす社会は、以前より多様性が重要視されるようになっています。
他人のことを尊重したいという思いが強すぎるため、自分の言動が誰かを傷つけていないか敏感になったり、混乱してしまったりすることはありませんか?
そんなあなたに、かけたい言葉があります。
あなたが心の中で描く「誰か」は、川のように狭いようにみえて、実は海のように広いのです。
人の性格や特徴を表す言葉を、私たちは日常でとてもよく使います。
複雑 – 単純
賢い – 愚か
情緒不安定 – 安定
集団的 – 個人的
悲観的 – 楽観的
外交的 – 内向的
初めて誰かに会った時、その人の特徴を無意識にカテゴリー化、つまりその人をある部類に当てはめて認識することは当たり前のことで、決して間違ってはいないと思うのです。その人がどんな人間なのか、概ね把握する必要があるからです。
最近では、MBTI (Myers–Briggs Type Indicator) という性格審査の診断結果を自己紹介で使うのが流行っている、ということを耳にします。パーソナリティに関する心理テストはとても興味深く、自分や他人がどんな人間なのか簡単に示してくれます。相性の確認や仕事の適正などを判断することに、役に立つのかもしれません。
同じように人を「陽キャラ」や「陰キャラ」などのように分類するのも、集団の中で自分の役割を認識したり、人とのコミュニケーションの手段を選んだりする中で、私たちが無意識に行うことと言えます。
カテゴリー化は、私たちが受け取るたくさんの情報から重要なものをピックアップし、整理してくれます。
しかし、いつも同じカテゴリーを使っていると相手を深く理解することを妨げるばかりでなく、人との交流の中で新しい価値観などを体験する機会を失ってしまうと思うのです。
人間の「今」はその時の状況や環境、年齢やライフイベントなど、さまざまな要素が相互作用しています。
普段は情緒が安定しているが、親しい人やペットと別れを告げた後の数年間は、小さな出来事にも敏感になって涙が出た。
人と話すことは好きだけれど、疲れている時には一人でいたい。
いつもは楽観的でも夕食中に考え事をしていたら、ふと両親のことが心配になった。
人の性格は一生の間で、ある程度一定のものだといえるでしょう。
しかし、私たちは時間や状況によって、変化しうる生き物なのです。長い間ずっと一緒にいると、その人のことを知ったつもりになり、「この人はずっとこうだったから…」と行動を予測してしまいがちです。すると、その人の小さな変化に気がつくことができないこともあるかもしれません。そんな時は、その人に当てはめていたカテゴリーをゆっくり外していけば、その人の全体を受け入れることもできるようになるのではないでしょうか。そしてさらに、お互いが尊重できていることを確認しあえて、より快適なコミュニケーションに繋がるでしょう。
変化が激しいこの世界では、柔軟性が求められます。
柔軟性というと場面に応じて臨機応変に対処ができることを指しますが、私たちに求められるのは、人を「観る」レンズを柔軟にすることだと思うのです。
私たちはみな違います。
誰一人として、同じ環境で全く同じことを体験して成長する人はいないのです。
その人のことを知れば知るほど、カテゴリーという狭い枠から離れ、その人の広さを受け止められるようになる機会がやってくるのではないでしょうか。川から海へ至るように、心を開いて…
著者 Luna
編集 岡田笑瑠
グラフィック 鹿野里美