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  • Rico Matsunaga

愛想が良くて誰からも好かれる女の子」はもう辞める


私は物心がついた頃から、その子になりたいと思っていた。

笑顔を絶やさず、愛想が良くて、幸せそうで、みんなから好かれるような女の子。


祖母や母、周りの大人たちは私の成績や真面目さよりも、愛想の良さや容姿をよく褒めてくれた。


「女の子は愛想がいいのが一番だからね。」


女子校の高校への進学に対しては賛成してくれたが、その後、留学や東京の大学への進学を希望するようになると、それとなく私の将来を心配した。


「そんなに頑張ったら、見合う男の人を探すのが大変になっちゃうでしょうね。」


母が家庭の愚痴をこぼすと、祖母は決まってこう言うのだった。


「お父さんが外でお仕事をしてくれるから、生活させてもらえるのよ。早く帰ってお夕飯を作って、笑顔でお迎えしなさい。」


私が反抗期になって父への嫌悪感をあからさまに顔に出すようになると、母はどこかで聞いたセリフを言うのだった。


「お父さんが外でお仕事をしてくれるから勉強させてもらえるのよ。愛想良くしなさい。」


そうやって私の頭には「女の子は愛想が良くて誰からも好かれるべき」とプログラムされてしまったのだ。


だが私のプログラムは、ただ単に「誰からも」好かれるのではなく「世の男性」から好かれるように設定されていたのだと気が付いたのは、大人になってかなり時間が経過してからだった。私は今、28歳だ。もう10年以上同じプログラムで動いていたことになる。


これを書いている時点でも、スマホをひらけば「留学中の性被害」「就活セクハラ」「コロナ禍のDV被害増加」そんなニュースばかり目に入る。「留学中の性被害」「就活セクハラ」「コロナ禍のDV被害増加」これらは全部、私自身のストーリーでもある。


長年の夢だった留学。言葉だけでなく、文化やコミュニケーションの違いに戸惑いと驚きの連続だったあの頃。あらゆる感覚や感情がなくなってしまったあの日。一秒でも早くその場から離れたかった。数日後、自分が性被害にあったと理解するまではいつも通りに過ごしていた。


そう、愛想良く、笑顔で。

普段はスラスラと話せた外国語も、自分の身に起こった出来事と自分の感情を説明するとなると、一言も言葉が出てこなかった。これが言語能力によるものではなく、性被害における追体験(フラッシュバック)によるものだとは、現地の人も、自分自身も思いもしなかった。


「どうして嫌だと言えなかったの?あなたが日本人だから?」

「そんなことが起こっていながら、どうやってこの数日間笑顔で過ごせたの?」


就活中、しばらく疎遠になっていた男性の先輩から連絡があった。先輩曰く、就活はOB訪問が大切で、就活が本格化する前から準備した方が良いという。私はその先輩の業界や職種に興味があった訳ではない。ただ何となく、断りづらかったのだ。無愛想だと思われそうで。


先輩の残業が終わるのを待って、お店で待ち合わせたのはかなり遅い時間だった。就活の相談、というよりは先輩が目標や夢について語るのを、笑顔で聞いていた時間の方が長かったと思う。時折「すごい!」「へぇ〜!」と相槌を打ちながら。


厚かましさと、親切心と下心。これを曖昧にしてしまったのは、私の愛想の良さだったのか?

料理とお酒を奢ってくれると言われていた手前「あと一杯」を断れなかった私のせいだったのか?就活の相談とはいえ、そんな遅い時間に男性と二人で会う私に隙があったのか?


お店を出たのは終電をほんの数分過ぎた後だった。彼はごく自然に、こう言った。


「まだ分からないことも多いと思うから、全然相談乗るよ。そうだ、俺の家で映画でも見ない?さっき話した映画のDVDがあるんだよね。ここから家も近いし。」


2020年、パンデミックがようやく少し落ち着いたように見えた時期に、実家に帰省した。帰省中のある夜、深夜に一階で物音がして目が覚めてしまった。眠たい目を擦らせながら一体何の騒ぎかと階段を降りると、踊り場で足が止まった。足がすくんだ、という表現の方が正しいのかもしれない。一階で父が母に暴力を振るっていた。物音は父が母を殴り、蹴り、拳を振り上げる音だった。母は泣き叫んでいた。私は何も出来なかった。身体も動かなければ、声も出なかった。父は私に気づくと、一言「ごめんね、起こして。」と謝った。


翌朝起きると、二人は何事もなかったかのように、朝食を食べていた。その日の夜も、その次の日の夜も、同じ物音がした。私には何も出来なかった。ただ、実家から逃げるように帰っただけだった。帰りの新幹線で祖母と母が良く言っていたあの言葉を思い出した。


「女の子は愛想がいいのが一番だからね。」


この言葉によって私も母も、祖母もその前の世代も、NOと言うべき時にNOと言えず、自分だけを責め、自由を失ってきたのかもしれない。


私は知っている。


学校で、留学先で、就活で、職場で、家庭で、道端で、思いがけない場所で、このプログラムが私たちの中で無意識のうちに起動していることを。

だから「あなたが苦しみませんように。」なんて無責任なことは言わない。その代わり、こう伝えたい。「愛想が良くて世の男性から好かれる女の子」はもう辞めよう。


このプログラムが無くならない限り、私たちは自由にならない。ほんの少しでも違和感を感じたら声に出していい。愛想が悪いと言われても、世の男性だけでなく周りから好かれなくてもいい。愛想の良さや好かれているかどうかはあなたの価値には関係ない。


他の誰からでもなく、あなた自身が決めるべきだから。




作者 Rico Matsunaga @beberiquito

編集 Emiru Okada

グラフィック Emily Mogami



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