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  • Saki Yamaoku

不公平な「当たり前」

閲覧注意: この記事は、セクシャルハラスメントについて書かれています。



女性として生きるとは?


3月15日、Blossom the Projectがインスタグラムに投稿した記事をみた。

ロンドンでサラ・エヴァラードさんが帰宅途中に行方不明になり、現職警官が誘拐と殺人の疑いで訴追されているという内容だ。ちょうど 2日前にこのことをルーシー・マウンテンさんの投稿を読み、知った。わたしがこの記事を書き、わたし自身の体験と感じた恐怖を文字に起こし読んでもらおうと思ったのは、イギリス各地の女性たちがこの事件を機に、自分たちが経験した恐怖を共有していると知ったからである。



ある日の夜、アルバイト先で友達と2人で食事をしていると、隣の席の斜め前に座る男と頻繁に目が合うことに違和感を覚えた。ふとした瞬間、その男の手元に視線を向けると、スマートフォンでこちらを撮影しているのが一眼で分かった。カメラの向き、不自然な角度、自分の鼓動が早くなり、友達との会話に集中できていないことにもすぐに気がついた。しかしその時はわたしは「絶対にそうだ」と思いつつも確証がなかったため、その日シフトに入っていた同い年の同僚に伝え、後ろから確認してもらうと、やっぱりそうだったらしい。現行犯で声をかけ、店から出ていくように伝えてくれた。 その後聞いたのは、フォルダには何個もの動画があり、消すように指示してくれたとのことだった。 同僚にその男性に謝らせるか聞かれたが、顔も見るのも怖かった。一緒に食事していた女性は何が起こっているかわからない様子だった。広めの席に移動させてもらった後、店長が出してくれたコーヒーを飲みながら自分の震える手を見つめ、怖かった感情と向き合いながら泣いたことを今でも覚えている。


大学からの帰り道、いつものように電車で帰る途中だった。その日は膝上くらいの丈のスカートを履いていた。まだ平日の昼間で、ほとんどが空席の車内。1人の男がわたしの目の前に座った。私は席を選ぶ時から座るまでの間常に視線を感じていたが、脚を組み、気にしていないフリをした。 窓の外を見るフリをして顔を上げ男の顔を確認すると、まだこちらを見つめていた。各停電車は人気の少ない駅に停車した。男が立ち上がり、わたしは降りるのかとホッとした。しかしドアから出る瞬間、男は少ししゃがんで、私の脚に触れたのだ。そしてドアが閉まり男は去ったのだった。私はこんな風に扱われるのかと悔しかった。私はあの男の欲を満たすための道具ではないし、女性の脚にあんな風に、簡単に、許可もなく触れていいはずがない。母に言うと、驚いたと同時に 笑って「そんなこともあるんだね、」と、重要なことではないかのように扱われた。


友達と食事を終えた夜の10時くらい、駅のホームで電車を待っていた。友達と会話をしていると、ふと視線の先に白いスマートフォンのカメラをこちらに向けた男が立っていた。「あの人、盗撮してると思う」と友達に言うと、じゃあ確かめてみようかと、駅のホームを少し歩いてみた。カメラはこちらを追ってくる。怖くなって、その男が乗った車両とは別の車両に乗った。もう男の姿は見えないし、 安心していた。友達は私より1つ前の駅で降りる。友達と別れ、私も自分の駅で降りた。 改札を通り前方に目をやると、男が白いスマートフォンのカメラをこちらに向けて立っていたのだ。すぐに気づいてその男を避けて通ったが、私の家に向かう道は人通りも街灯も少なく、安全に帰れるとは思えなかった。駅前のコンビニに駆け込んだ。

鼓動は早く、手も震えていた。男がまだ外にいるかどうかもわからなかった。友達に電話をかけ事情を説明すると、「すぐに行く」と言って、10分ほどでコンビニに来てくれた。友達は「遠回りして帰ろう」と言って、いつもとは別の道を通って家まで向かった。踏切を渡った後に気づいたのは、その男が大通りを挟んだ向かい側の歩道を、携帯を見ながら歩いていたことだった。こちらにも気づいているようだった。男は自動販売機の前で立ち止まり、飲み物を買う様子だった。友達は「携帯見せてもらおうよ」と言い、大通りを渡って男に話しかけた。彼女は「すいません、携帯見せてくれませんか?」とだけ声をかけた。 すると男は「はい、どうぞ」と何の抵抗もなしに、携帯を差し出してきた。すぐに気がついたのは、そのスマホの色が青かったことと、写真フォルダには黒板や生徒との写真があったこと。 友達は「ありがとうございました。何もなかったのでいいんですけど、すごく怪しくて怖かったので。 なので、気をつけてください。」と言って、男から離れ少し遠回りをして、私を家まで送ってくれた。

何もしていない人が、もし他人からいきなり「携帯見せて」と言われて、普通に見せるだろうか?男は聞かれることを想定して、別のスマホをいつも常備しているかのようだった。それから夜道を1人で歩く時は、周りの足音や影で自分の鼓動が早くなるのを感じるし、音楽を止めて、少し早歩きをしたりすることもある。


今これを書いていて思うのは、私は男たちに向かって間違いを指摘することができなかったことと、 自分が被害に遭った時に、声を上げることができなかったこと。「女性だから」と言う理由で、短いスカートやタンクトップ、胸元の出るような服を着る時は、いつも以上に人目を気にするようになった。でもその場で声を上げることができなかったのは、私のせいだろうか?痴漢、盗撮、ストー カーや性被害に遭った時、周りに助けを求めることができなかったのは、私だけだろうか?

被害について相談した時、私は「なぜすぐに警察を呼ばなかったのか」「やめてって言えばよかったのに」「露出の多い服を着るなんて触ってくださいって言っているようなものじゃん」「すぐ逃げればよかったのに」こんな風に言われた。まるで私が悪かったかのように。

夜道を1人で歩くと早くなる鼓動や、人目を気にしながら着る服を選ぶ日、被害者が責められることがあるから誰にも言えない、 「女の子なんだから」。被害者や社会的弱者と呼ばれる人たちの声は、そうでない人が被害者や女性の立場に立って、差別や偏見、不公平な「当たり前」と戦わなければいけない、と私は思う。


しかし、その相手を理解しようとする姿勢や行動だけで、社会は、国は、世界は、ほんの少しずつでも、変わることができるのではないだろうか。



参考文献



About 山奥咲

ずっと感じていたモヤモヤ、誰に言っても分かってもらえなかった気持ち、これが普通でいいわけないのに、普通でないことを正当化する社会に少しでも分かってもらいたくて、私の実体験をもとに初めて自分で文字を起こしてみました。



グラフィック Maya Kubota

編集 Emiru Okada

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