• Mutsumi Ogaki

「写真では伝わらない何か」:植物と向き合い心を満たす


久しぶりに長期間日本に滞在し、植物から季節を感じることの喜びを改めて実感した。街の風景だけでなく、スーパーに並ぶ食材からも季節の移ろいを感じる。自宅にいる時間が長くなり、植物を積極的に生活に取り入れようとしている人も多いのではないか。私たちはよく「植物に癒される」と言うが、実際それはどういうことなのだろう。植物がメンタルヘルスに及ぼす影響。このテーマでインタビューをしようと思い一番に浮かんだのは、植木屋さんとして働く友人の村本萌。彼女が植物に携わる仕事についたきっかけや、植物との付き合い方についても聞いてみた。


萌は美大で布のデザインを勉強し、卒業後は生地の柄を描く仕事に就いた。3年ほど前に植物の販売や納品、メンテナンス等、グリーンに携わる仕事に転職。もちろん今の仕事でも彼女のセンスや色彩感覚は活かされているが、このキャリアチェンジに少し驚いたのを覚えている。「絵描く勉強して、何かこう表現する人間になりたかったのにいいのか?、って人からも言われるし自分でも思うけど、結果的に良かったなと思ってます。」


今では、この仕事に就くのは必然的だったとも考えている。美大のテキスタイルデザイン学科の受験勉強として必須だったのは、花のデッサン。その時から植物の絵を描く機会が多く、美大に入ってからも布のデザインをする時には花柄など、描く対象として植物がずっと身近な存在だった。ある時、恩師に「植物の写真見て描いてないか」と指摘された。「実際珍しいものとか、想像で描く部分もあるし、画像検索って今なんでも出るから、それで描くことももちろんあったんです。でもやっぱりよく見ている人にはバレてて。植物って命あるもの。根っこが生えて、成長するもの。動いているものやのに、その止まってる絵を見てもよさは伝わらへん、って言われたのがむちゃくちゃ印象的やって。そっから描くときは絶対本物の植物をそばに置くようになったんですね。」



植物の観察を続けるうちに自然が作り出す色やパターンにどんどん魅了されていき、モチーフとしてもっと理解を深めたい、と植物に携わる仕事に切り替えた。植物が好きでよく職場から持ち帰るため、自宅には常に15から20種類の花や植木があるという。いつも植物に囲まれて生活をしている彼女に、植物の魅力、特にメンタルヘルスへの影響について聞いてみた。


「緑もそうなんだけど、それこそ私の前のルーツをたどると、やっぱり色がない空間ってすごく心つまるわけですよ。シンプルに、こう精神的にどんどん潜っていっちゃうから、私それが一番苦手で。壁紙変えるとか、家具の色変えるとか、そういうのの一つの選択肢として植物置くっていうの、すごくいいことだと思います。色が加わるし、しかも生物やからなんか生きてるエネルギーを与えてくれる。やっぱり生きてるものを世話するっていうのは、純粋に健康的だと思います。ペットもそうだけど。要は命あるものなので、ほったらかしにすると枯れるし、手間かけすぎても枯れるし。」


やはりお客さんからの質問でも多いのは、植物を枯らさない方法。もちろん専門的な知識を取り入れるのが大切な時もあるが、萌がお客さんに一番伝えたいのは、植物と向き合い育てていくこと。それと、植物の存在をもっと気楽に、身近に感じてほしいということ。



「何か癒されたいから植物買うのって、結構みんなそこで心配事が生まれるんです。ちゃんとうまくできるかな、枯らしたらどうしよう、ってストレスに繋がるから、何かもっと気楽なものやと私は思っています。ちゃんと一本の植物と向き合って、付き合ってれば、いろいろ分かるわけですよ。葉っぱがこう下がってきたら水足りてないな、とか。一週間経ったけど今週ちょっと雨多かったし、湿度高かったからまだ乾いてないんちゃうかって。それって一本の植物と向き合って接してくことが大切で、多分それが本当のメンタルヘルスっていう事だと思うんですよ。あるから癒されるとか、空気がきれいになるとかじゃなくて、あって、向き合って、数か月なり一年なり育ててみて、こうやってやると枯れるんだとか、こういう風にするとこんなに元気に育つんだとか、対話して初めて満たされる気がする。」


「メンタルヘルスのために植物を取り入れるというよりかは、植物好きになってみたらメンタルすごくヘルシーになってた。」


しんどい時は、今すぐこの状況から抜け出したい、とセルフケアの効果ばかりに執着して焦ってしまう。だからオンラインで色々な情報を取り入れすぎてしまうこともあるかもしれない。しかし、自分の心の健康状態をケアするためには、その過程に集中することがが不可欠なので、自分自身、そして自分の好きな物にまっすぐ向き合う気持ちが大切だと思う。ソーシャルメディアなどで他人の意見や感覚を意識し始めると、自分の好きな物を人前で言うのが苦手になっていった経験は、私自身にも萌にもある。植物を生活に取り入れるのにも、それがおしゃれかどうかが一つの判断基準になっている傾向もあるのではないだろうか。その根底にあるのは、想像力の欠如だと萌は言う。


「レビューを見る癖がついているのもありますよね。みんながどう思ってるかを確認しないと、自分の意見を言うのはちょっとなかなか、っていうのはすごくある。価値観がもっと多様になったらいいのになって思う。ビジュアル先行の今じゃないですか。全部写真で流れてくるし、気になることあったら検索したら全部出てくるし。植物とかお花が身近にあると、想像力が豊かになると思います。だってつぼみのお花が、こんなつぼみからこんなきれいな花咲くんやっていうのを身近に感じるだけでも、なんかクリエイティビティは自分の中に生まれるはずやもん。生きているものが身近にあるといろいろな表情が見れるから、やっぱりそういうのに身近に向き合うのって大事だと思う。ずっと画面だけで、画像や動画だけで見てたら絶、対に得られないものとか得られない癒しはあると思う、命あるものには。」




編集 Emiru Okada

カバー Ayumi White

テキスタイル 村本萌