• Mutsumi Ogaki

心のケアへの多彩なアプローチ




「心をケアする方法は沢山あるので、自分に合うものを探してほしい。」そう話すのは、アメリカでアートセラピストの卵として働いている、河田-イングリッシュ悠花さん。今回はその方法の1つ、アートセラピーについてお話しいただいた。


アートセラピーとは?

「メンタルヘルスを扱う職業って色々あると思う、例えばカウンセラーとか精神科医とか。そういうメンタルヘルスのサービスの一つで、アートを使った心理療法っていう風にとってもらえたらわかりやすいかな。個人、家族、カップルからコミュニティまで、色んなレベルで様々な問題に向き合える心理療法。言語だけを使うカウンセリングでカバー出来ない事を、アートや物を作ったりする事で色んな感覚・刺激を材料にして、脳の様々な部位を使ってカバーすることが出来る、と私は解釈しています。」


お話を聞くまで私は、アートセラピーは自分でも出来るものだと思っていた。そう考えた人は、きっと私だけじゃないはず。いわゆる大人の塗り絵や友達と一緒に絵を描いたりする事はリラックス効果がありそうだけど、それはアートセラピーとはどう違うのだろう。


はるかさんは自分で行うアートを使って行うメンタルケアを「セルフケアアート」と呼んでいて、彼女自身もよく行うお気に入りのメンタルケアだそう。しかし心理療法であるアートセラピーとは区別する必要があると言う。「お医者さんじゃない人が私は医者ですって言ったらだめなのと同じかな。アートセラピーはアートセラピストとクライアントとの関係のもとで成り立つわけで、トラウマや他の悩み、痛みを抱えていらっしゃるクライアントの方に対応するわけやから、プロとしての知識がなきゃいけいない。だから区切りは必要。」


では実際のアートセラピーのセッションは、どのような感じで行われていますか?

「これは私がいつもする流れやから、アートセラピストその人によって違うと思うけど…まず私がするのは、その日のクライアントの雰囲気をチェックすること。今日は調子どう?とか。そこで今日はこんなことがあって嫌だったとかトピックが出てくることもあるし、こっちが最初に今日はこれしようって決めてる場合もあるし、クライアントによって色々変わる事もある。その後にするのは、アートの方向性を決めること。色鉛筆だったり、クレヨンだったり、粘土だったり何を使いたいかっていうのを選んでもらって、そこからじゃあ今日はこれをしてみようって感じで提案をして、作ってもらってる間にこっちが質問したりしなかったり。」


「例えばアンガーマネジメント(怒りと上手く向き合うこと)を目標にしているクライアントだと、「あなたのお母さんに対する怒りは、どんな風に見えるかな」とかそういう質問を投げかけて、そこでアートのレスポンスが返ってくることもあるし、返ってこない時もある。とにかく何をしてても、クライアントがする事って一つ一つ意味があるから、それを拾っていく。作り終わった後に質問をフォローアップとして投げかけて、それにどう答えるか分析するのもプロセスの一つ。アンガー(マネジメント)の例でいうと、お母さんに対する怒りと兄弟に対する怒りで、こっちがすごく大きくてこっちがすごい小さかったら、その違いはなんなのとか。アートセラピストって、アートを見てそのアートを判断するんでしょ?って思ってる人が多いと思うけど、本当はそうじゃなくて。クライアントが作ったアートを一緒に見て、その人の解釈の仕方を一緒に分析するのを手助けする人だから、あなたはこれを描いたからこうだっていうのとは違う。」


アートセラピーにはどういう効果がありますか?

「痛みとか悩みとかってこう、なんか行き詰った感じで、その状態を解決させるものが心理療法かなって思ってて、そのプロセスを助けるために、手を使ったり物を作ったりする事が役に立つと思ってます。痛みとか悩みとかって目に見えないと思うので、だからそれを何かイメージを作ることで可視化することが出来ると思う。見えないものってみんな怖いと思うから、それに形を与えることによってちょっとコントロールしやすくもなるのかな。具体的なイメージを作る事で視覚的に思い出させるものになる、みたいなこともあるのかなって思ってて。希望を持つことが出来たり、アートを作って意味を見出すことによって回復とかヒーリングを効果的にすることも出来るし、痛みを軽減するっていう作用もある。」


「トラウマ、PTSDの症状を抱えている人って、言語の脳がシャットダウンしてしまう傾向があって、その時に言語だけを使ったカウンセリングだとカバーしきれない時もある。そこでアートだと、トラウマの記憶が蓄積されている視覚や感覚を司る色んな脳の部位にアプローチ出来るという事も、アートセラピーの効果の一つかな。」


欧米での研究が盛んなアートセラピーは、アメリカでもまだまだ白人のセラピストが大多数を占める分野。大学進学をきっかけにアメリカで生活しているはるかさんは、アートセラピストの卵として働いていく上でマイノリティとしての自分の立ち位置と向き合ってきた。アジア人、留学生、移民としての苦悩や学びなど自身の経験を含んだ共著「Asian ArtTherapist: Navigating Art, Diversity, and Culture」を2020年11月に出版されました。



アートセラピーに興味を持つようになったきっかけは?

「ちっちゃい頃から何か人の役に立つことをしたいなと思ってて、まあそれは漠然としてて何か分からんかったけど、高校くらいの時に心理学を勉強したいなって思って。アメリカに最初に来た時はシアター専攻で、それはどちらかというと自分が楽しんでいることって感じ。最初のセメスターが終わった時に、これ自分一生やっていきたいかなって疑問に思って。自分でアートを作ったり表現することが元々好きやったから、心理学とかそういう人助けをできる分野とその自分が好きな分野を繋げるものってないんかな、って思って大学の先生に相談してアートセラピーがあるよって教えてもらった。」


アートセラピストとして働く上で大事にしていることや、心がけていることはありますか?

「人を部分的に見るんじゃなくて全体的に見る、っていうのを一番大事にしてるかな。マイノリティとして生きてる中で、日本では考えたことのなかったインターセクショナリティーを自分で実感して、自分は女性であって、日本人であって、アジア人であって、移民であって、色んな交差する点があるっていうことに気づかされました。日本ではそういうのって経験したことはあんまりなかった。マジョリティーの立場やったから。だから例えば、クライアントで精神疾患を抱えている方のそこだけを切り取って、あなたはADHDがあるからこうです、とかそういうのは絶対違うやん。その人にも色んなインターセクショナリティーがあって個性がある。だからその人を全体として見たいなと思ってる。色んなところが交差している自分やからこそ、クライアントと接する時にその人の痛みとか経験を100パーセントはもちろん分からなくても、イメージして少し分かることが出来るんじゃないかなって思う。」


【悠花のBIO】

河田-イングリッシュ悠花は南イリノイ大学エドワーズビル校でアートセラピーカウンセリングの修士号取得を目指している大学院3年生。大阪出身で2013年にアメリカ、ミズーリ州のセイント・チャールズに移住しました。個人、カップル、家族間でのグリーフケアの提供の経験をへて、現在は個別教育プログラム(IEP)が作成された生徒の社会的そして精神的なニーズをサポートしています。





編集 Emiru Okada

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