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  • Kiana

彼の顔にアメリカ人とは書いていないけれど


日本の空港での出来事。

私とフィリピン系アメリカ人の彼は、二人でフィリピン行きのチケットカウンターに並んでいた。日本とアメリカ、それぞれのパスポートを見せてから荷物を預けて終わりのはずだった。


しかし、そのカウンターのスタッフからこう聞かれて驚いた。


「あなたはフィリピン生まれでアメリカに移民したのですか?日本での滞在資格を示すビザを見せてください。それとフィリピンでの滞在資格のビザも」


彼はすかさずこう答えた。


「パスポートをよく見てください。僕はアメリカ人だから、アメリカのパスポートですよ。フィリピン人じゃない。日本での滞在資格は、在日米軍勤務なのでSOFAステータス*です」


そう言うと本来提示の必要はない、軍人の身分証明書であるミリタリーIDを渡した。


スタッフは続ける。


「在日米軍ですね、わかりました。それでもビザもあるでしょう?」


彼は在日米軍は日米地位協定に基づき、民間人のようなビザを持たない特殊なステータスであることなど、SOFAステータスについて説明する。


たしかにフィリピンには、日本のような米軍基地が存在しないからSOFAステータスについて知らない可能性はあるが、この航空会社はアジア各国への運航があり、米軍基地のある韓国と日本でも多数の運航がある。ただ、SOFAステータスについては非常に限られたアメリカ人が持つものだし、一般的に知られていないので仕方がないのかもしれない。


スタッフからの問いかけはまだ続く。


「日本での滞在資格はわかりました。フィリピンは?ビザはありますか?」


現在、民間人を含め、アメリカ人のフィリピンへの渡航にはビザは必要ない。スタッフは、彼の見た目がフィリピン人だから聞いているのが明らかだった。


彼はさすがに唖然としてしまっていたので、私がフォローに入る。


「彼はアメリカで生まれたアメリカ人です。フィリピンに親戚がいるだけです。アメリカ人の渡航にビザは必要ないし、彼は在日米軍勤務のアメリカ人なので持っているはずもありません。パスポートだけで十分なはずです。日本に戻ってくる便も決まっています」


私が説明したら、なぜかすんなりと終わってしまった。


日本の航空会社ではない、国際線のカウンターなので、言語の問題ではないだろう。滅多に腹を立てない彼でも、今回のことは不快だったようだ。アメリカのパスポートを見せているのに、フィリピン人かフィリピンからの移民かと聞かれ、彼のアイデンティティに土足で踏み入られたことと、彼がアメリカ人だと自分で説明しても信じてもらえなかったことに不快感を覚え、腹を立てていた。私にそのスタッフの考えは分からないが、空港で働いているといろんなステータスで日本に滞在している人に出会うので、不法滞在を疑うようになるのかもしれない。でも、彼に投げかけた質問は、そういう問題ではないだろう。


ステレオタイプの問題だと、わたしたちは思った。


フィリピン系の見た目の彼が、フィリピンに渡航する。GDP世界一のアメリカのパスポートを出してきて、日本人の女性と渡航する。たまたま重なった偶然に「何の目的だろうか?彼らは嘘をついていないか?」と疑問に思ったのかもしれない。もっと根本的に、隠れている可能性を私が勝手に掘り出すなら、そのスタッフは彼がアメリカ人かどうかを疑ったのかもしれない。


彼の顔にアメリカ人とは書いていない。日本人とも、フィリピン人とも書いていない。

誰の顔にも、〇〇人とは書いていない。


私は日本人だけれど彼といる時は英語を話しているせいか、外国人と思われることも多い。飲食店などで私たちに英語で話しかけてくれるのは、親切心からのサービスだと私たちは解釈するようにしている。ただ、「何人ですか?」と聞かれたときには少し戸惑う。本来確認する必要がないことだから。


どちらかといえばメニューを見る時や、何かサービスを受ける時に「日本語を理解できるかどうか」ということを確認したいだけの場面が多い。それなら一旦日本語で話してみて、相手が理解していない素振りだったら、どうしたらよいか、どの言語で対応したら良いか尋ねるだけで十分だ。


日本国籍ではなくても日本語が堪能な人は世界中にいるし、日本人かどうかは顔に書いていないのだから、一旦試してみてからでいい。決めつけてしまうのは、相手を傷つけてしまうかもしれないから。


空港や金融機関、役所などでの国籍の確認は、法律に関わることが多いので重要だと思う。

でも、今回の空港スタッフの間違っていた点は、彼の見せた身分証明書と彼の言ったことを信じなかったことだ。そのスタッフに悪気はなかったかもしれないけれど、彼が提出した書類をまずはきちんと確認した上で、彼が言ったことを信じるべきだった。日本人の私がフォローに入らなくても。


彼の顔にアメリカ人とは書いていないけれど、彼はアメリカ人だ。

相手の国籍を見た目で判断してしまうのは、自分の持つステレオタイプと相手の見た目が重なった時だろう。


見渡してみよう。

世界中にはいろんな見た目の人がいて、似たような見た目の人がたまたま一つの地域に多く暮らしている場合もあるし、多様な見た目の人が一つの地域に暮らしている場合もある。


大きな交差点で周りを見渡したら、歩いているみんなが着ている服が違う。

自分と同じ服を着ている人を見つけるのはきっと難しいだろう。

それと同じくらい、世界にはいろんな人がいる。


ステレオタイプはもちろんあると思う。メディアや歴史に模られてできたステレオタイプ。個人の経験をもとにつくられたステレオタイプ。


私が彼と旅行するまで、こういう経験をしたことがなかったように、誰かと出会ったり、行ったことのないところに旅をしてみると、良くも悪くも目を見開くような経験や価値観に触れて、写し鏡として自分のステレオタイプに気づけるかもしれない。新しい人や場所、物事に触れることで自分を刺激すると、ステレオタイプを定期点検できる。そうやって一つ一つ見直して、一歩一歩自分の世界を広げてみよう。



参考文献:




著者 Kiana

編集 Emiru Okada & Kyoko Itagaki

グラフィック Ren Ono

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